仕事においてフィードバックを受けることの大事さはおそらく誰もが認めるところだと思ってます。
様々な組織において行われている1on1や評価面談などの制度も、フィードバックをすることで個人の行動をより良いものにしていくことが目的だったりします(もちろんそれ以外の目的もありますが)。
しかしポジティブなフィードバックはしやすいですが、ネガティブなフィードバックはするのも受けるのも難しいものです。
ネガティブなフィードバックもポジティブなフィードバックと同じぐらい重要です。
ネガティブなフィードバックを活かせるようにするためにはどうすればいいのか、組織面・個人面それぞれの観点で考えてみました。
組織面
まずは組織という側面でネガティブフィードバックを活かす方法について考えてみます。
結論から書くと「失敗を許容する文化」「率直なフィードバックができる文化」が大事です。
失敗を許容する文化
以前『多様性の科学』という本についての感想を書きました。
『多様性の科学』を読んで - Melting Pot of Thoughts
面白い本だったので同じ作者が書いている『失敗の科学』という本も読んでみたところ、そちらも面白い内容でまさに「失敗を許容する文化」の重要性について書かれた本でした。
書かれていたことは『失敗を生み出す原因は人ではなくシステム』という考え方でした。
権威主義や失敗が許されない業界では特に、ミスをした人が失敗を認められず、その後も同じような失敗を繰り返し続ける話が医療業界等の具体例を交えてわかりやすく書かれていました。
逆に素晴らしい学習システムを構築している業界例として航空業界について書かれていました。
航空業界ではミスが起きた際それが大事故につながらないものだったとしても、失敗原因の分析や知見の共有が行われているそうです。
そしてそれが会社内だけでなく業界全体として行われていて、全航空機関・全パイロット・全監督機関がほぼリアルタイムで新たな情報にアクセスできる体制になっているそうです。
結局、失敗から学ぶことは費用対効果がいいので、個人の失敗をシステムの改善に活かす素晴らしい学習システムが生まれたそうです。
率直なフィードバックができる文化
上記のような「失敗を許容する文化」は人ではなくシステムを改善し安全性を高めていくためのものですが、個人の行動を改善していくような「素直なフィードバックができる文化」も大事です。
Netflixも率直な文化で有名ですが『NO RULES(ノー・ルールズ) 世界一「自由」な会社、NETFLIX』という本で紹介されていた上手にフィードバックを贈る/受けるための4Aというガイドラインが面白かったので紹介します。
フィードバックを贈る側の2A
1. Aim to assist: 相手を助けようという気持ちで
建設的な意見を言う。
ある行動を変えることが、フィードバック者にとってではなく相手自身や会社にとってどう役立つのかを説明することが大事。
2. Actionable:行動変化を促す
フィードバックを受けた側が行動をどう変えればよいかわかるようなフィードバックが良い。
フィードバックを受ける側の2A
3. Appriciate:感謝する
批判されると誰もが反射的に言い訳や腹を立てたくなるが、この自然な反応に抗い自問する。
4. Accept or discord: 取捨選択
フィードバックは必ず受け取って検討する必要があるが、それに従うかどうかは本人が決めて良い。
それをフィードバックを贈る側/受ける側の双方で認識しておく必要がある。
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以上、「失敗を許容する文化」「率直なフィードバックができる文化」について説明してきました。
ここまでの話はエンジニアリング組織論に興味がある人だとすでに馴染みが深い考え方なのではないかと思います。
個人面
ここまで組織面の話をしてきましたが、結局のところ組織の文化を個人で変えるのは難しいので、ほとんどの人にとってはこちらがメインの話になるかと思います。
組織面の話はあくまで会社内の仕事に関するフィードバックに閉じた理想的な話について書いてきました。
しかし現実の世界では多種多様なフィードバックが来ます。
SNSなどで知らない人から意見をもらうこともありますし、仕事で社外の人とコミュニケーションすることもありますし、自分が関わっているプロダクトに対するフィードバックを見ることもありますし、私生活について家族や友人からフィードバックが来ることもあります。
個人という観点では、フィードバックを贈る側に対し前述の4Aにあるような立派な姿勢をいつも求められるかというと、現実問題不可能です。
つまり建設的ではないネガティブなフィードバックも含めて受け取らざるを得ない状況です。
1つの対処法としてはフィードバックを一切受け取らないという方法があります。
SNSやブログにおいてコメント禁止の設定にするのもそれに当たります。
もちろんポジティブなフィードバックを受け取れなくなるデメリットはありますが、インターネットでは見知らぬ人が建設的ではない荒らしコメントをすることが多くあるので、ブログやSNSについてそういった設定にしている人は多いです。
また似た方法として、自信を強く持ちどんなネガティブなフィードバックを受け取ってもスルーするという方法もありますが、あまりいい方法ではありません。
本人は気にしていないつもりでも、知らぬ間に精神がすり減ってしまっていたり、あるいは意固地になって自説を変えられない頑固な人になってしまいます。
ブログやSNSならともかく、いずれの方法も仕事においては行うべきではありません。
フィードバックに一切耳を貸さない人というのは、いずれ誰もフィードバックを贈ってくれなくなり成長できなくなってしまうからです。
仕事においてネガティブなフィードバックを活かす方法は「論理的に明確な仮説を持って仕事をすること」だと私は考えています。
フィードバックの内容は、そのフィードバック内容が成立するコンテキスト(背景・前提条件)がある場合がほとんどです。
例えば営業をしている人が「アポ数が少なすぎる。もっとアポ数を増やしたほうがいい」というフィードバックを受けた場合、その背景として「アポ数の少なさが営業ファネルのボトルネックになっているからアポ数を増やしたほうがいい」という前提がある可能性もありますし「実戦経験が足りないのでまずはアポをこなして経験を積んでほしい」という意図の可能性もあり、フィードバックには様々なコンテキストがありえます。
自身が普段明確な仮説をもって仕事をしていれば、ネガティブなフィードバックを受けた際に、そのフィードバック内容について建設的に議論することができます。
前述の例だと「アポ数が少ないのは今は質が重要だと感じているからであり、質が上がったら行動量を増やす予定なので、来月にはアポ数が増える」といった自分の意見を伝えることで、建設的な議論を行うことができるようになります。
議論した上でどうしても決着がつかないこともありますが、基本的にはその議論の過程自体で自身も相手も考えが深まり有益な機会となります。
というわけで、自分なりの考えを普段から論理的に強く持っておくことで、ネガティブなフィードバックを受けた際にそれを起点とした有益な議論にすることができ、ポジティブ・ネガティブ問わずフィードバックを歓迎しそれを活かせる、というのが個人面の話でした。