Melting Pot of Thoughts

SaaSスタートアップのCTOです。思考の整理のため考えたことをメモとしてアウトプットしていくブログです。

『多様性の科学』を読んで

『多様性の科学』という本を読みました。

読んだきっかけは、自身が勤めている会社が様々な企業出身者で構成されており女性比率も半分近くあるためでした。またSDGsなどの文脈で多様性というワードをよく見かけるようになったことも興味をもったきっかけの1つです。

想像より面白い本だったので内容を振り返ってみました。

 

 

『多様性の科学』は

  • 多様性があることによりどのようなメリットがあるのか
  • 多様性がないことによりどのようなデメリットがあるのか

について解説した本です。
実際に起きた事実を例にしつつ説明されており、多様性の持つ利点について腹落ちする構成になっていました。

 

 

本の結論は非常にシンプルでした。
複雑な難問に取り組む際、いくら賢い人が集まっても同質性が高いと下図右下部に記載されているように問題解決のアイデアは限られてしまいます。
さらにいうと皆が同じアイデアを主張するため固定観念がより一層強まる危険性があり、仮に正しいアイデアを言う人がいても誤っている自身のアイデアをより一層信じ込んでしまうそうです。(これはSNSなどで自分の所属するクラスタで主流の意見を信じ込んでしまう”エコーチェンバー”という現象を例にとって説明されていました。)

そのため下図左上部のように多様性が高いメンバーを集めることが問題解決のアイデアを集める上で重要だという話でした。

 

f:id:doyaaaaaken:20211210234855p:plain

※ 図は書籍より引用

 

 

引用例も非常にわかりやすく面白いものが多かったです。

 

例えばCIAが9.11テロを予測できなかった原因について触れられていました。
CIAはアメリカという国を守る情報機関なので、最高の人材を集めるべく厳格な人事採用基準を設けており、2万人に1人しか合格しない年もあるほど競争率が高いそうです。
SAT(大学進学適正試験)形式や心理学形式での試験が課されるそうです。

その結果ほとんどの人が、アングロサクソン系でプロテスタントの白人男性になってしまったそうです。

それにより、9.11テロに関わる情報はCIAとして傍受できてはおり、イスラム文化のことを少し知っていれば危険性はわかるものだったのにも関わらず、見逃してしまいテロ防止策が打てなかったそうです。

能力を最優先で採用した結果、皮肉にも多様性がなくなり組織としての能力は低下してしまったという事例でした。

 

 

逆に多様性があったことでうまくいった事例として、第二次世界大戦中にナチスの暗号機エニグマを解くチームの例が紹介されていました。

通常であれば世界有数の数学者や論理学者を集めればうまく解読できそうに思えます。
最初はそうしていたそうなのですが、言語学者歴史学者クロスワードパズルが得意な一般人など様々な人材を集めたことで解読に成功したそうです。

 

 

 

読んだ内容を自身や世の中に当てはめて考えた考察としては次のようなものになりました。

 

1. 意思決定する人が、異なる意見を受け入れる度量を持つ必要がある

多様性があることにより様々な意見が出てきたとしても、意思決定を行う人間がそれを受け入れなければ意味はないどころか、むしろ議論が長引いた分だけマイナスになります。
例えばよく大企業において「女性比率を◯%以上に上げる」といった人事目標が設定されていることがありますが、比率を上げるだけでなく女性の意見を活かせる意思決定者(昭和なマインドセットの人をどうにかする)もセットで必要だと感じました。

 

2. ベテランほど、他の人が意見を言いやすい雰囲気を出す必要がある

書籍内にもアンチパターンとして、ヒエラルキーが強い組織においては皆が自身の意見を言えなかったり意見を合わせてしまう話が書かれていました。
ヒエラルキーは地位の話だけでなく、業界における権威も含まれます。
ベテランパイロット機長に他のパイロットがごく当たり前の意見(そろそろ燃料がなくなって飛行機が落ちる)意見を言うことができず、燃料切れで墜落したエピソードが書かれていました。
「大ベテランなのだからすでに燃料が危ないことは自身が意見するまでもなく考慮しているだろう。真剣に考えているのを邪魔するわけにはいかない。」といった心理からのようです。

 

プログラマーという仕事においても、どれだけベテランになってもレビュー指摘を他の人から受けやすいウェルカムな雰囲気を出す必要があると感じました。

 

3. 個人としても多様な経験をしたり多様な意見にふれることで、思考の幅が広がる

プライベートでは最近奥さんが妊娠したのですが、その際にすごく驚いたことがあります。今まで一切気づいていなかったような、町中にある子供に関連する様々なものが目に入ってくるようになったことです。

近所に保育園が5件ぐらいもあることに気づいたり(今までは1件ぐらいしか気づいていなかった)、町中で子供向けの服屋や習い事の広告が目に入るようになったり、授乳室やスロープ(ベビーカーに使う)の存在に気づくようになるなどです。

人は経験をすると思考の枠組みも変わることを強く実感しました。

 

また仕事でも他社の人間と話をしていると、思考の幅が広がるなと思います。
他社の話と自分の考えを比較することで、自身がぼんやりと理解していたことをうまく言語化できるようになったりだとか、自身になかった気づきが得られることがあります。

 

4. 多様性が必要なのは、複雑な問題領域

同質な集団は、それはそれで意思決定が早い・仕事のやりとりが円滑に進むといったスピード面でのメリットがあります。
日常的な業務を円滑に回す上ではスピードは超重要なので、そこに多様性を持ち込もうとする(例えば「チーム全員で合意するまで議論しよう」と提案する)のはマイナスになる可能性もあります。

多様性が必要な領域と、必要ない領域を意識するのが大事だなと思いました。

 

5. 採用の際に、能力基準の他、多様性も意識する

CIAの例は自分が採用担当をしている身からすると、かなり共感できる話でした。

当然能力重視で採用すべきことは間違いないですが、多様性も意識して気をつけないと同質な組織になるので注意しようと思いました。

 

6. 「同質ではない」だけでなく「意見をわかりやすく言える」ことも大事

いくら人材に多様性があり多様な意見がでてきたとしても、意見をきちんと言う能力がなかったり、わかりやすく説明する能力がなかったり、説明が論理的に破綻していたりすると、その多様性は活かすことができません。

ある人について多様性を意識した採用をするときは、「自分なりの意見を言える」能力があることが重要だと感じました。